地震3日目

マクニチュードは9.0に訂正された。


あれから、福島第一原子力発電所1号機の原子炉建屋が爆発した。爆発は建屋の壁が崩壊したもので、原子炉が入っている格納容器が爆発したものではないとの説明。1号機を冷やすため、海水注入作業が行われた。
避難は、福島第一原発を基点に半径10キロから20キロ圏内にまで拡大。
この点について、枝野長官は「具体的な危険が生じるものではないが、万全を期すため」と述べた。
けれど住民22人の被曝を確認。1号機からの放射性物質の飛散で、避難中の近隣住民のうち最大で190人程度が被曝した可能性が出て来た。


「こうなることはわかっていました」という恐ろしい書き出しで始まる義母のメールで、「放射能は風に乗ってやってくるから、風向きが変わったらむやみに外に出ないこと」とあり、ヨウ素を取るよう指示があった。夫は薬屋に買いに行ったがなくて、それを含んだイソジンを買ってきた。これを20ml飲むのだという。そんなことをして大丈夫なのか、私は私でネットを見て、消毒液だから妊婦は飲まない方が良いという、夫は一人でイソジンを飲んだ。
TVで、マスクは有用だと言っていたのを見て以降、夫は家の中でマスクをしている。
放射能って、だって光線じゃないの?と聞いたら、放射能を含んだ塵やほこりが体内に入ってそこから被爆してしまうのだという。
今、風は南から北に吹いている。風向きが変わったら、換気口を閉じて換気扇を止める。
ネットを見てわかる範囲の都内の知人や友人らは、どうやら外に出ていたり、働いていたりするらしい。冷静で、うらやましい。先程また余震があって、恐がりの夫とパリは神経をすり減らしすぎて、とうとう寝込んでしまった。パリの耳は地震があるたびに真っ赤になって可哀想。夫は、目の前でパニくることは全くないけれど、たぶんすごく怖いのだろう、頭痛がひどそうだ。


私と夫は、高層階同士で身動きが取れなかったし、会えるまでに長い時間がかかって「このまま会えないかもしれない」という恐怖が強かったから、全く出掛ける気になれないでいる。
しかも、エレベーターがすぐに止まるので、妊娠8ヶ月(ああもうすぐ9ヶ月!)の身重には、高層階の階段の上り下りは厳しいし、まして閉所恐怖症のパニック持ちがエレベーターに閉じ込められたらと思うと出たくない。更にその時のショックで切迫になってしまったら…。ぜんぜんない話じゃない。


我々が恐がりで、大げさなんだろうか。


昨夜は節電にいそしんだ。夜は台所で作業する際、そこの電気だけつけて、リビングは豆球(3つ)だけ。TVは必要な時にだけつけて、ノートPCも極力閉じていた。


私の精神状態の方は昨夜、まとめ料理をしていたら落ち着き始めた。私って、主婦なんだなと思った。
夕飯に、さて何を作ろうか、迷ったけど、もしもこれが最後のごはんになったらと思って、シャブシャブみたいなものを作った(つまり、いろいろ茹であげて、レモン醤油で食べた)。それから、レタスと卵のスープとブロッコリーのサラダ。スーパーで買ったお米は宮城産で、さっぱりとしておいしいね、と大事に食べた。いつものごはんがおいしくて、おいしいねといい合いながらたべられたのはすごく良かった。


ジャガイモとブロッコリーごぼうを全て蒸して、ごぼうはだし汁に漬けた。
災害に備えてというより、いつもの週末の作業だ。
それから豚肉の賞味期限だったので、ひとつは冷凍をし、ひとつは冷凍うどんで焼うどんにした。
うちは圧力鍋でごはんを炊いているので、電力とは関係ないけれど、それでも暗闇で米を炊くよりはというので夫が炊いた4合のごはんを塩むすびにしながら、管総理の演説を聞いた。
ごはんは痛まないよう、手水を梅酢にしてにぎり、乾燥している家なので、オイルペーパーにくるんでおいた。
翌朝、そのおにぎりに鮭フレークをつけながら食べたら、もちもちしてすごく美味しかった。
夫がなめこの味噌汁を作って、食べている間にまた揺れがきて、デザートにグレープフルーツを食べた。
それから二人で家の掃除と洗濯をし、洗濯物を畳んだ。
窓の外は花粉で霞んでいる。
ヘリは飛ぶが、救急車は減ったように思える。


地震がくるたびに猫が怖がるのを、大丈夫だよー、と笑いかけるたびに、大丈夫な気持ちになる。
原発のニュースがどんどんひどくなっているのを見るたびに、腹が痛んだり、大きく蹴られたりするが、大丈夫大丈夫と撫でると、気持ちが落ち着く。
誰かに、大丈夫、と言われるよりも、大丈夫だよ、と笑いかける方が、自分の精神状態は安定するらしい。


被災地では停電の中や余震の中で子供を産んでいる人たちがいる。そのニュースを見て、涙が出た。すごいよ。ほんとすごい。どんなに怖かったろう。
遠方に住む友人らから、不安やショックや地震被害で早産や切迫になっていないか心配だった、というメールやメッセージをもらう。ありがとう。私、不安で当たり前だよね?神経質になっても仕方ないよね?と許された気がした。
でも、備蓄もできたし、夫もいるから、家の中にいる限りは、もう怖くない。万が一陣痛がきてしまったり出血してしまったりしても、病院は目の前だし、階段降りていくだけなら、大丈夫。夫がいるし、猫もいるから。