A宅

幼なじみのAの家に遊びにいく。去年末に生まれた子に会いに行くはずが、お互いの状況がずれにずれてもうすぐ一歳になってしまうこのタイミングで、ついで、妊娠の報告をした。
彼女には、子供を持とうと思っている旨を去年だか今年だか、メールで話していたので、
そのこと自体にはさほど驚いていなかったが、小学生時分から子供はぜったい生まないと強く言っていた上「女の子ができてしまったら二階から落とす」とまで言っていたらしい(忘れたが言ってそう)私が、どうして子供を持とうと思ったのかその心境の変化を聞きたがった。
そう思うのも無理はなく、私自身、小学生のとき、母親に「私はぜったい子供なんて生みたくない。お母さんみたいな母親になるのも嫌だし、私みたいな子供を育てるのも嫌だ」と言い放った事が、先月のことのようだし、基本的に何もその意見は変わっていない。


そこで、一番大きな心の変化は、祖父が亡くなった時に親戚で集まって、家族でしか分かち合えないことがあるな、と強く思ったことを話した。
それから、丁度その折り、出会った頃から結婚もしたくなく子供も欲しくないと言っていた今の夫がプロポーズしてきて、子供も欲しい、と言ってきたこと。カルマめいたものに支配されていた夫が、そんなことを言ってきたのだから、それは大きな決意であると私は思い、とても真面目に考えた。それで、同じように根深くカルマめいたものに取り付かれていた私は、もしも私が単体生殖でクローンめいたものを産み落とさなければならないのであれば絶対にごめんこうむりたいが、夫の子なのであったら、それはすなおでかわいい子供だろうな、と、まずそれを思ったのだった。
次に、祖父が亡くなって、親戚中がもめて、その中で親戚中を困らせたのが、自営業で子供のいない叔父だったこと。イトコと、「子供を持たない素敵な夫婦は沢山いるけれど、私達はきっと、子供を持たないと、血的にああいう風になってしまうだろう」と言い合って怯えた。
そんなことが渦巻いて、決意して、プロポーズをお受けして、マンションの抽選に当たってしまったので、その頭金を2年で作るために煙草を辞めたのだが(だって二人でやめればやめただけで2年で50万近いお金が作れる!)、それも、いつかは辞めなければならないとわかっていたので辞められたところもある。


血のつながりで受け継がれてしまう性質のようなものに怯えていたけど、子供は、別っこの、人間なんじゃないかと思うようになった、と言うと、「そうそう、あのね、もう出てきた瞬間から、一個人だよ。別人だよ」とA。
私は今までもたくさん変わってきたし、嫌だと思う方向があるなら、がんばれば、変えられるんじゃないかと思えるようになってコーチングから仏門の本まで読んだということも話した。
最後に、「私は子供がいるということで起こるダイナミズムな環境と関係の変化を、楽しみたいと思っている」と私が言うと、
Aは、慎重な面持ちで、「もし、生める身体があって、状況が許すのであれば、生んだ方がいいと私は思う。苦労より、面白さの方が、多いよ」と花向けに言ってくれた。もちろん、妊娠した私にだから言ってくれたことだ。先月、子供と共に入院していた彼女の言葉には重みもあって、何より面白いことが好きな私は勇気が出た。私は彼女が高校生の時、「私は子供を産んでみたい。自分に与えられた女性の能力を試してみたい」と言ったことを思い出していた。


Aからマタニティズボンを二枚借りる。「五月に産まれたら、うちの子が今着ているのいっぱい譲れるから服は一枚も買わないでよし」と言ってくれる。
二人きりで会えるような友人で、子供を産んだのがAと妹しかいないので、とてもありがたい。
聞けばA側の友人(同窓生)は、2人とか生んでいる人ばかりだそうだ。みんな、大人だな。。。