妊娠8ヶ月

あれから2ヶ月たって、おなかの大きさはすっかり妊婦そのものだ。
立ち上がるのがやや困難で、思わず「よっこらしょ」と言ってしまう。
しかし、コートのせいか、相変わらず電車内で席は譲ってもらえない。


今日はひな祭りで、腹の中の子はどうやら女の子であるらしいので、来年からは、毎年、女児の健康を祈って祭るのだろう。
実家ではお雛様を一段ずつ、私の分と妹の分とを飾り、母がちらし寿司を作るのが習わしだった。ちらし寿司はとても美味しいのだけど、はたから見ていても作るのが恐ろしく面倒くさそうだ。あれをやるのだろうか、私も。そして私のおひな様は無事なのだろうか。新しく、買わないとだめだろうか。


年末年始は忙しかった。


うれしいことや、たのしいこと、おいしかったことが山盛りあった。
戌の日に水天宮にも行った。水天宮は、少子化していない時はいったいどれだけの人が来ていたのかというほどの人だかりだった。
お参りを待つ間、ビニールハウスに妊婦たちだけが収容されるのだが、出荷待ち、という言葉が頭からどうしても離れなかった。


悲しかったことも沢山あった。
泣いたり大声を出したりしてもめることがいくつかあったり、ショックで2日眠れず全身が痛くなってしまって、病院で睡眠薬を兼ね備えた精神安定剤を処方してもらい、副作用で湿疹が出て痒くなったりもした。喪服も着た。


それでも、腹の中の子は、実になんともなく、ぐんぐん育って、胎動も激しく、
私の体も、私が死んでしまいたいと思おうが思うまいがおかまいなしで、健康で、体重も怒られなければ逆子ですらない。悪い菌もいなく、貧血もない。結局はまり食いもしていない。
私の周りの、数少ないママ友は、皆、つわりで大層苦しんだ、とか、切迫流産だ、切迫早産だ、後期つわりだ、自宅安静だ、逆流性食道炎だ、食道裂孔ヘルニアだ、逆子が治らない、NICUだ、と、何かと大変だったようで、みんな、そもそも虚弱な私を心配してくれる。なのに、周りの人が風邪をひいたような極寒のイベントに行ったのに一人だけ健康だったりしている。
自分がこんなに妊婦に向いている体質だとは思わなかった。
普段から無理をせず、出来るだけ省エネで暮らしているからだろうか。


そんな私でも、月の数日間、具合が悪くなったりする。
雨が降る前の日と、おなかが大きくなる数日間。


この前、みぞれが降って、以来、おなかが3日痛かった。立ち歩くとすぐにおなかが張る。横になるのも辛くて、あぐらをかいて座っているのが一番楽だった。
今日の検診で、たぶん冷えたのでしょう、と言われる。それから、急におなかがまた大きくなったから。
おなかは、均一のスピードで大きくなるのではなく、段階的で、唐突に、あれ、なんか昨日より大きい!という具合に大きくなる。それで、その、大きくなる前に、体内での臓器たちの位置取りが揉めるらしく、とても不愉快な感覚だったり、痛かったりする。この3日、冷えとともに、それもあったのだと思う。
とにかくぐんぐん大きくなるので、夫の会社の方々から頂いた妊娠線予防のクリームを、毎夜ぬりたくっている。


夫の方は、年末、突然おなかがぐんぐん大きくなり始めてから、ようやく実感を持ち始めたようだった。
それまで、あんなに欲しがった割に、肩すかしなほど、無関心に近かった。
夫にしてみれば、ただ私が具合が悪く、態度も冷たく、お弁当もなく、料理も手抜きで、現実的な、制度やお金の話しばかりするので、どんどん私が変わっていってしまうみたいで、(そして自分も変わらなきゃいけないような気がして)、この期間はとても寂しかったそうだ。
しかし、おなかが大きくなり、胎動がするようになったら、急に自分も共有できるようになったのか、楽しくなってきたようだった。


しかし、「今すごい動いてるよー!」と言って「ええー!どれどれー!」と夫が触ると、なぜか我が子はシーンと動かなくなる。
なので、胎動が激しすぎて不快な時に、夫に腹をなでて鎮めてもらっていた。
夫は、自分の手が胎児が落ち着くからだとポジティブに思っていたらしいが、本によれば、どうやら、人見知りをして不審がっているらしい。
「生まれてくる前からお父さんがよくおなかを触ってあげると、子供もなつきやすい」と書いてあったので、夫はちょくちょくおなかを触るようになった。
最近は目で、おなかが動くのがわかるほどになって、夫は私の腹に口をつけて、「元気だねー」とか「楽しいねー」とか言っている。
母親学級で「ポジティブな声がけをしましょう」と言われて以来、意識してみればネガティブな発言ばかりしている私だったので、夫の声がけは大変有り難い。
私が一番している声がけは、「おっどうしたどうした」だ。次が「大丈夫だよー」。あとは「ごめんごめん」。
両方、動きすぎる我が子への、素のリアクションなだけだ。
あと「美味しかったねー」も言うが、これは我が子にというより、胃に言っている感じがする。


我が子が激しく動くタイミング。


1位・パリの鳴き声
2位・ベッドによこたわった時
3位・ごはんを食べた15分後